Research Abstract |
中枢神経系では,しばしば,神経細胞体に集まる軸索終末が複雑に絡み合い,細胞周囲神経叢pericellular plexus(Cajal 1910)を形成する.神経叢が標的細胞体上につくるシナプスボタンの形態とそれらの相互関係を調べるため,神経細胞間の結合を水酸化ナトリウム処理によって解離して,神経叢を標的から剥がし取り,走査電顕観察した.今回は,ラットの小脳核大型ニューロンと脊髄前角運動ニューロンを包む細胞周囲神経叢を観察対象とした. アルカリ処理した組織は細胞の境界に沿って割れ,丸い神経細胞体を露出させていた.それに対応する凹みには,多数の軸索終末が密に並び,それらのグリアの細長い突起が仕切っていた. 小脳核ニューロンの細胞周囲神経叢では,軸索終末は幅約1μm長さ1.5-4.8μmの楕円形のシナプス面を呈し,それらのいくつかは数珠状につながり合い,細長いシナプス面を形成した.軸索終末間のグリアの仕切りは不完全で,隣り合う終末がしばしば直に接触,交叉した.ブルキンエ細胞特異蛋白スポット35に対する抗体を用いた免疫組織科学によって,これらの終末の大部分は,ブルキンエ細胞に由来することが明かにされている(Takahashi-Iwanaga 1992).今回の所見は,ブルキンエ軸索が,数珠状終末枝の膨らみのところだけで従来考えられてきたような独立した小さなシナプスをつくるのではなく,互いに絡み合い,全体として一つの巨大な網状終末を形成することを示す. 一方,運動ニューロンの細胞周囲神経叢は,直径1-5μmの様々な大きさの円形のシナプスボタンからなり,それらはグリアの仕切りによって互いに隔離されていた.直径2μm以上の大型のボタンには2種類が区別された.一種は,シナプス面が細い溝によって2-10個の小円形領域に区別され,各領域に前角細胞とのシナプス結合が一つずつ形成された.もう一種は溝がなく,シナプス面の中央が丘状に膨隆していた.
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