Research Abstract |
実験にはニワトリの有精卵を用い,温度38℃,湿度約80%に保った孵卵器内で孵化を行った.孵卵7日目頃にテフロン被覆銀線を卵殻内に刺入し,殻に固定した.この銀線を電極とし,孵卵10日目頃から心電図の記録を開始した.記録した心電図のR波の間隔から心拍周期の時系列信号を求め,FFT法により心拍リズムゆらぎのパワースペクトルを求めた.また孵化直前に雛が殻に開けた穴を利用し,赤外線ガス分析器により雛の肺呼吸に伴う卵殻内のCO_2濃度の変化を記録した. 鶏胚の心拍リズムゆらぎのパワースペクトルは,孵卵10〜12日目頃には0.1Hz以下の低周波数領域で白色雑音様のスペクトル特性を示した.その後,孵卵日数が進むに従ってこの周波数領域のスペクトルの傾きが増していき,孵卵17日目頃には1/f様のスペクトル特性を示した.このスペクトル特性は鶏胚の孵化直前まで維持された.この結果は,成体においては一般に認められる心拍リズムの1/f様のゆらぎが,鶏胚においては発生の初期には認められず,その後の発生段階に依存して出現することを示唆している. さらに,孵卵12日目頃に心拍リズムゆらぎの呼吸性変動が現れ,この成分は孵卵日数が進むに従い徐々に大きくなる傾向が認められた.特にスペクトルの低周波数領域において1/f様のゆらぎが認められるのとほぼ同時期に,呼吸性変動成分が急激に大きくなる傾向が認められた.これらの結果は,発生過程の鶏胚において呼吸リズムと心拍リズム間にcouplingが存在し,発生が進むにしたがってこのcouplingが強化されることを示唆している.
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