Research Abstract |
本研究は、初期の仏教で行なわれた「がん」等の難治性疾患患者に対する医療の特徴を、Ayurveda(古代インド医学)との関連から再検討することを目視した萌芽的研究であり,1.難治性疾患の種類、2.診断後の対応、3.療養問題、以上の点について、仏教の資料と、医学書Susrutasamhita(NSP,1938,pp.312-313)等医学書の記述を対比させながら、古代インドの療養システムが仏教を中心に形成されていく背景と過程を明らかにした。 Visuddhimagga(HOS Ch.1 109,p.32,PTS pp.39-40,Paramatthamenjusa Varanasi 1969,Vol.1 p.104)に悪性腫瘍(乳癌)と推測される在家信者に対する対応の例が見出される。悪性腫瘍に苦しむ在家者(母)が、出家者(娘)を通じて医薬品による治療を仏教教団内の出家者(息子)に求める。しかし、出家者(息子)は、薬物ではなく、在家の患者(母)に「言葉の薬」を処方し、出家者(妹)に全身のマッサージを実行される。それが奏効して患者は病苦から開放される。悪性腫瘍等の厄介な病気に対して薬物療法が有効でない場合に、瘉しの手段としての「言葉」や、マッサージ(タッチ)等を用いて、精神面のサポートを与え、治療効果を上げ、苦痛の緩和をはかることは、僧団内ではいわば仏陀以来の伝統的医療とも考えた。 今日,看護の基本として「タッチ」が見直されている(M.Snyder:Indipendent Nursing Interventions and Purposeful touch.Ellen C.Egan:Terapeutic Touch.『日本看護研究学会雑誌』Vol.16 No.1 1993年3月,pp.81-102.マライア・スナイダー『テキスト看護介入』メディカ出版 1994年6月,pp280-299、324-335、351-364.)。タッチやマッサージには、疼痛緩和作用等の効果が確認されているが、遥か5世紀中ごろの仏教文献に薬剤に代わる治療法としてマッサージが用いられ、苦痛の軽減に役立ったという記述が見出されるのは甚だ興味深い。
|