Research Abstract |
A-431細胞にEGFやATPを添加すると,フォスファチジルイノシトール(PI)の合成が促進された。PI合成は細胞内カルシウム阻害剤やCキナーゼ阻害剤によって抑制されたが,細胞内カルシウムとCキナーゼ活性の両者を上昇させても,それだけではPI合成の促進は観察されなかった。細胞膜を[^3H]コリンで標識してから細胞をATP刺激で刺激すると,コリンの遊離が有意に上昇した。またこの上昇は百日咳毒素の前処理によっても低下しなかったことから,プリン受容体は,ホスフォリパーゼCの活性化とは別の機構で,ホスフォリパーゼDを活性化しているものと思われた。そこでPI合成を促進している可能性のあるセカンドメッセンジャーとしてフォスファチジン酸(PA)に着目し,PI産生との関連を調べた。[^<32>P]リン酸で細胞膜を標識してから,プリン受容体を刺激し,細胞の脂質を抽出して,薄層クロマトグラフィーでPAを分離した。このスポットを掻き取り放射能を測定すると,PAの産生は2.0倍に上昇していた。PAはそれ自体がセカンドメッセンジャーとして機能することとともに,CTPと反応して,PIの前駆体である,CDPジアシルグリセロールになることが知られている。細胞内のPAは,PAホスファターゼによって,速やかにジアシルグリセロールに脱リン酸化されるが,βアドレナージック遮断薬として知られるpropranololは,この酵素を阻害することが知られている。Propranololの添加によりPAは,ATP刺激の場合と比較しても2.6倍と多量に蓄積した。このようにPAが蓄積した細胞では,PIの産生も有意に上昇したので,PAの産生が,PI合成を促進したものと考えられた。しかしATPと比較すると,PAの量が多い割には,PI合成量は少なかった。これはCキナーゼ活性や,細胞内カルシウムの刺激が行われていないことによるものと考えている。
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