Research Abstract |
口唇裂口蓋裂患者の裂隙閉鎖術後の瘢痕組織は種々の問題を引き起こす.これら瘢痕組織の形成期に出現する線維芽細胞は筋線維芽細胞とも呼ばれ,瘢痕組織の形成及び収縮に重要な役割を果たしていると考えられる.この様な線維芽細胞の分化のメカニズムを明らかにするために以下の実験を行った. 8週齢のSD系雄性ラットを用いその口蓋部の粘膜を切除して瘢痕組織を作製し,その瘢痕組織から分離培養した線維芽細胞(SF)と,正常口蓋粘膜由来の線維芽細胞(NF)において,近年筋線維芽細胞の分化マーカーとして提唱されているα-smooth muscle actinと細胞接着因子であるインテグリンβ1の発現をWestern Blot法と蛍光抗体法にて検討したところ,SFはα-smooth muscle actin陽性の細胞をかなり多く含んでいることが明らかになったが,インテグリンβ1の発現については両者に大きな差は認められなかった.次に正常粘膜由来線維芽細胞(NF)に種々の細胞成長因子(PDGF、bFGF、TGF-β1、EGF)を作用させて,α-smooth muscle actinの発現の変化を検討したところ,TGF-β1のみがその発現を大きく上昇させた.またその発現は24時間で現れ,その後72時間までtime-dependentに上昇していくことが明らかとなった.α-smooth muscle actinの発現が細胞の収縮力に影響を及ぼしているかを検討するために,正常粘膜由来線維芽細胞とTGF-β1でα-smooth muscle actinを発現させた細胞をコラーゲンゲル中に分離培養し,両者のゲルの収縮量を比較したところ,TGF-β1を作用させた細胞の方が収縮量が大きかった.これらのことから,口蓋粘膜瘢痕組織由来の線維芽細胞は,α-smooth muscle actin陽性の細胞を多く含む,すなわち筋線維芽細胞に富んだ細胞集団であり,筋線維芽細胞の分化にTGF-β1が重要な役割を果たしていることが示唆された.
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