Research Abstract |
大陸地殻中のマグマの進化を理解することを目的とし,固体-液体系の熱物質移動について理論的および実験的考察を行った。 マグマの冷却速度を支配する要因を理解するため,固体と液体が接した場合の熱移動について理論的考察を行った。様々な溶融温度をもつ固体と液体の組み合わせ,および液体の対流の有無について網羅的な検討を行い,その結果,液が活発に対流するという条件と固体が溶融するという条件が同時に満たされた場合固体中の温度に関係なく液は急速に温度降下すること,一方,それ以外の場合液は固体中の熱伝導に律速されてゆっくりと冷却すること,の2点を明らかにした。 マグマがその上面および下面で固体と接する場合に発生する対流や熱移動の性質を明らかにするため,水-塩化アンモニウム二成分共融系のアナログ実験を行った。実験結果から,(1)上面では,熱対流により決定する熱移動によって固体溶融が急速に起こり,また,その溶融液は元の液に対して分離した液層を形成すること,(2)下面では,溶融結晶化に伴って組成対流が発生し,その対流は熱を効果的に運ばずに化学成分だけを運んで液中に組成勾配を形成すること,(3)組成対流により液中に形成される組成勾配は,液中に二重拡散対流層の形成を促し,上面への熱流量を減少させる効果を持つこと,という3つの重要な観察事実を得た。 これらの結果を大陸地殻中に貫入した玄武岩マグマに応用すると,(1)貫入直後に,上面地殻の溶融によって玄武岩マグマとは化学的に分離した珪長質マグマが急速にできる,(2)両マグマは,地殻の融点に達するまでは急冷するが,その後,冷却速度が遅くなる,(3)玄武岩マグマは下面での溶融液と混合し,組成分化経路が変化する,などの熱物質進化がおこることが予想される。マグマ中における二重拡散対流層の形成は,マグマの急速冷却時の冷却速度を小さくする効果を持つと考えられる。
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