Research Abstract |
本研究はX線観測による情報に基づいて、楕円銀河と銀河団の形成過程と化学進化を明らかにすることを目的とする。最終年度に当たる本年度はあすか衛星による観測情報の蓄積に伴い幾つかの重要な知見が得られた。1)楕円銀河の星の鉄組成は従来太陽の数倍といわれていたが、あすかによる観測では楕円銀河の高温ガスに含まれる鉄の組成は逆に太陽の数分の一である。この食違いは楕円銀河内部での鉄組成の勾配を考慮に入れて平均の鉄の存在量を評価しても埋めることはできない。銀河団における鉄生成の収支、銀河団ガスによる希釈、鉄固体への凝集、Ia型超新星の発生頻度の過大評価、などの様々な可能性を考えた上で、この原因が楕円銀河ガスのように比較的低温にあるプラズマの鉄の組成を評価するのに通常用いられるL輝線の原子物理学的基礎データ及びプラズマモデルが不備であるためであると結論ずけた(論文1‐2、及びArimoto,Matsushita,Ishimaru,Ohasi,Renzini,1996,ApJに投稿中)。更にこの推論を確認するために、あすかによって特に星の鉄組成値が高いと思われるNGC7619、7626、2832、逆に明るいにも拘らず異常に鉄組成値が低いNGC5018、2865、更にX線光度が光りの明るさに比べて極端に低いNGC3607、3608についてあすかによる観測を行い、この問題についての系統的な考察を現在進めている(Matsushita,Arimoto,Renzini,1996準備中)。2)珪素や酸素、マグネシウム、硫黄、カルシウムなどと鉄との相対組成比から銀河団のガスの化学組成がII型の超新星によって大部分合成されたとする論文(Mushotzky et al.1996)があすかの観測に基づいて発表されたが、そのもとになっている太陽の鉄の組成値に誤りがあるのを指摘し、正しくはむしろIa型超新星による寄与の方が多いという定量的な解析結果を得た(Ishimaru,Arimoto 1996,AAに投稿中)。3)(1)及び(2)の結果に基づき、楕円銀河に含まれる鉄と銀河団ガスに含まれる鉄の両者を整合的に再現する楕円銀河の化学進化モデルを構築した。その結果、初期質量関数がArimoto & Yoshii(1987)によって提唱されたように大質量星の個数が多い場合に限って銀河風モデルによって矛盾なく観測を説明できることが明らかとなった(Ishimaru,Arimoto 1996,準備中)。4)28個の渦状銀河のバルジのスペクトルを観測し、バルジの金属量指数と速度分散の関係を初めて導出した。楕円銀河の類似の関係と比較したところ両者は全く同一であることが判明した。これはバルジの形成過程が楕円銀河のそれと同一であることを強く示唆する(Jablonka,Martin,Arimoto 1996,AJに投稿中)。5)楕円銀河の形成期を直接捉える可能性のあるのはCO分子の輝線観測である。銀河風モデルでCO輝線強度を計算するための準備として、一連の分子雲の観測の考察をまとめた(論文3,4,5)。6)ダストによる光りの吸収と散乱が銀河のスペクトル進化に及ぼす影響を計算し、銀河の計数観測においてはそれがあたかも銀河が進化しないかのような振る舞いをもたらすことを示した(Vansevicius,Arimoto,Kodaira 1996,ApJに投稿中)。
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