Research Abstract |
現在までに良好な電導性を示す数多くの分子性結晶が知らるようになったが、有機超伝導体を含めてそのほとんど全てが二成分以上から形成されている。これは、有機固体での電導性の担い手となる伝導電子を供給するという不可欠な要因によるものであるが、このこと自体が系の複雑さを増大させ、固体物性を司る結晶構造の制御をより困難にしている事も事実である。このような観点からすると単一成分有機電導体の研究はこの分野の新しい展開方向を指し示すものの一つと考えられる。そこで本課題では電気化学的両性度の高い新規な安定ラジカルを合成、単離しその単一成分有機電導体としての有効性を検討する事を目的として研究を行うことにした。実際の研究では四環性窒素複素環化合物であるキノキサロ[2,3-b]キノキサリン骨格(1)をモチーフとして選んだ。これは、ピラジンに代表される窒素複素環が代表的なW eitz型の酸化還元系を為すため電気化学的両性を付与しやすいこと、また極く限られた系ではあるものの中性ラジカルが安定に単離されている例があることを考慮した分子設計による。母体の1aとメチルトリフレートとの反応で5位が4級化されたカチオン種2aとした。このものの電子受容性は非常に高く、塩化メチレン中で還元電位の測定では+0.66及び-0.20Vに可逆な波形を示した。このことは2aの一電子還元で生成するラジカル種3aが0.86Vという小さなEsum値を持つ電気化学的両性の強い分子であることを予想させる。しかし、ヨウ化物イオンを用いた2aの還元では電子スペクトルで748nmの吸収を有する新しい化学種が観測されたものの半減期が10秒程と不安定な為その単離には至らなかった。そこで1aの1,4,7,10位の4箇所に様々な置換基を導入した化合物から出発しラジカル種3を安定に単離した。これらは10^<-7>から10^<-9>Scm^<-1>程度の電導性を示すことが明らかとなった。これらの値は決して高いものではないが、本研究の分子設計の妥当性を示すものである。
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