Research Abstract |
フラーレン超伝導体A_3C_<60>では,転移温度Tcが特徴的な圧力効果を持ち,コヒーレンス長ξが極めて短い超伝導が,狭いバンド幅Wの伝導電子帯に電子が半分詰まった状況で発現している.そして,_<12>Cの50%を_<13>Cに置き換える同位体効果の実験において,原子状態で_<12>Cと_<13>Cとを混ぜる場合と,一旦_<12>C,及び,_<13>Cだけで分子を作ってから混ぜる場合とでは,Tcが大きく違うという面白い同位体効果も見いだされている. さて、伝導電子が分子内に局在したフォノンと強く結合し,かつ,相互にも強いクーロン斥力Uの影響下にあるこの系を記述する簡単な模型として,ハーフ・フィルドのハバ-ト・ホルスタイン模型を取り上げた.そして,ξが短いことを鑑み,まず,2サイト問題を考えた.厳密数値対角化法によって,電荷,スピン,そして超伝導の応答関数を計算し,相互の大きさ,自由電子系での値との比較を行った.さらに,平均場近似の考え方を導入して,得られた応答関数からマクロな系でのTcを評価した.その結果,この模型では,主にCDW相か,SDW相が安定であることが分かるが,同時に,これら二つの相の入れ替わるごく限られたパラメータ領域でオフサイト対の超伝導が出現する.これは,CDW相を動かないバイポーラロン状態,SDW相をハイトラ-・ロンドン状態という立場からみると,“相関のある分子軌道"に立脚する超伝導として解釈される. ところで,この超伝導の場合,普通は逆同位体効果が期待されることが分かった.すなわち,BCS理論で想定しているようなWの大きい極限から,次第にWを小さくして, フォノンのエネルギーω_0の程度になると,同位体効果の係数αが符号を変えることになる.これは,BCS理論におけるT_cの公式で,Wとω_0との役割を入れ替えて考えることで,定性的には自然に理解できる.ただし,フラーレン超伝導体のように,有効クーロン斥力U自体が同位体置換で変わる場合には,たとえ,W【approximately equal】ω_0としても,通常の同位体効果が起こっても良いことも示された.そして,この機構を考えることで,フラーレン超伝導体の同位体効果を完全に説明できた.
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