Research Abstract |
分子性導体や有機電荷移動錯体の物性研究では,金属や無機物に比べ結晶構造の研究の比重は大きい。これは,結晶中の有機分子間の相互作用が「異方的」であり,しかも「分子間隔に大きく依存する」ため,詳しい結晶構造の情報が,物性の理解を助けるためである。これを言い替えると構造と物性との相関関係が強いということになる。相互作用が異方的であること,構造と物性の構造との相関が強いことが重なって,有機錯体では,特異な構造変化が極低温下で起こり,その結果物性も大きく変化する。このとき物性変化と構造対称性(空間群)とは密接な関連があることが多い。このため,分子性導体の構造対称性と電子物性との相関について調べることは重要である。本研究では,構造対称性をX線の削減則を使って詳しく調べ,物性変化との相関について研究をおこなった。まず,削減則を低温で調べるためにヘリウム冷凍機と回転機構および上下機構を組み合わせ,極低温用X線ワイセンベルグカメラを作成した。 有機錯体(BEDR-TTF)_3CuBr_4は60Kで磁気的性質が大きく変化するが,その原因は不明であった。我々は,室温では観測されないX線微弱信号を,長時間X線露光により新たに60K以下で検出することに成功した。この微弱信号は(BEDT-TTF)_3 CuBr_4の空間群(構造対称性)が60K以下でP2_1/cからPcに変化していることを示している。引き続いておこなった詳しい構造解析の結果,60K以下では3個のBEDT-TTF分子が,ごくわずか近接することにより分子三量体を形成している解を発見した。電荷移動量から考えて,BEDT-TTF3分子あたりホールが2ヶ存在することになるが、この分子三量体化により,2個の1/2スピンが磁気一重項状態になると考えると,上に述べた磁性の異常が理解できる。
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