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¥2,000,000 (Direct Cost: ¥2,000,000)
Fiscal Year 1995: ¥2,000,000 (Direct Cost: ¥2,000,000)
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Research Abstract |
微小液滴(直径5μm以下)を蛍光セルとして利用する,自己吸収の影響を全く受けない発光スペクトル観測法を確立し,同法に基づいて有機光化学に関する新しい知見を得ることを目的として研究を行った。ピレンまたはアントラセンのエタノール溶液から超音波振動により微小液滴を発生させ,レーザ光照射後の発光分光スペクトルを観測した。液滴からの溶媒脱離の度合いは周囲温度の変化(最高10℃程度の加温)により制御した。 ピレン/エタノール液滴からの溶媒脱離を高度に進行させたところ,過去に低温条件下(115K)でのピコ秒時間分解でのみ観測例のある,エキシマー状態の前駆体からの発光(B-fluorescence)が現れた。常温条件下かつナノ秒レーザ(7ns)励起による実験でのB-fluorescenceの観測は本研究が最初の例である。この事実は,微小液滴から生成した固体の結晶構造が,バルクな溶液からの再結晶によって生成する結晶構造と異なっていることを示すと同時に,微小液滴からの溶質分子会合体の生成によって,既存の方法では生成することのできない溶質会合体(結晶)の研究が可能になることを意味している。 一方,アントラセン/エタノール飽和溶液から発生させた微小液滴についても溶媒脱離にともなうスペクトルシフトおよび強度分布の変化が観測された。得られたスペクトルはアントラセン固体の発光スペクトルと同一の形状である。Franck-Condon解析により,観測されたスペクトルを最もよく再現するポテンシャル曲面を決定し,励起・基底電子状態ポテンシャルのエネルギーおよび振動座標の溶媒脱離にともなうシフトを決定した。10℃以下の周囲温度の上昇で自己吸収の影響を全く受けない固体のスペクトルが観測可能であるという事実は,微小液滴からの溶媒脱離を利用する手法が,溶液相と固相の中間領域あるいは固相光化学の研究に対してきわめて有益なものであることを示している。
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