Research Abstract |
古墳時代における葬送儀礼のこれまでの研究を整理検討した.そして,これまでの研究が遺構・遺物の研究に集中しており,人骨の取り扱いに注意した研究がきわめて稀であること,とくに,人骨の位置関係の乱れ等については,無視するか攪乱されたという理解で処理されてきたことを確認した.そこで,人骨出土古墳の報告を集成し,人骨出土状態と遺構遺物の関係を整理した.集成にあたっては,人骨出土状態と遺構・遺物との関係に焦点を当て,画像を取り込んだデータ・ベースの作成を行った.そして,田中がこれまで行ってきた.人骨の出土状態や副葬品との関係から生前の世代構成を復元し,人骨の遺伝的形質から親族構造の分析を行うという方法での,通時的・地域的変化との対比を行った. 画像データ・ベースを作成するため,作業量および作業時間が膨大となり,コンピューターの能力の問題もあって,西日本の主要な地域が分析の対象となったが,結果は以下のように,古墳時代の前半期と後半期では葬送儀礼に相違が認められるというものであった. 具体的には,古墳時代前半期においては,被葬者の状態は埋葬されれば,追葬されない限り再開口したりせずにそのままであり,墓室の中にも飲食物などを供献はしない.ところが,5世紀後半から,埋葬後再び墓室を開けて被葬者の下肢を動かし,その時に飲食物を供献するという事例を複数発見した.また,先学の指摘するところではこの時期から墓室内に土器が供献され始めること,単体の埋葬で墓壙や前庭部の土層から再開口が考えられる事例も今回発見した.このような傾向は,6世紀末前後からさらに顕著になり,埋葬後10年ほど経過してから,全ての遺体の関節を外してしまう行為を行うようになる.これらの現象は個々の報告においてはこれまど攪乱などで理解されてきたものであるが,全国的に事例が確認されることと,墓道・前庭部の状況からみて,明らかに意図的行為であるといえる. このような遺体の取り扱いの変化は,葬送儀礼全体ひいては背後にある死生観の変化を反映したものと考えられる.そのような意味で,『日本書記』『古事記』における『黄泉国神話』との関連において理解することができると考える. ただ,このような傾向は上記のような事情で,未だ西日本の主要な地域で確認ができたのみであり,画像データ・ベースも東日本までは作成し得ていない.今後全国的傾向を知るためには東日本の状況を把握する必要がある.
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