Research Abstract |
セネカの悲劇作品について,その科白が登場人物の所作よりも内面的な心の動きの表現に結びついている点に劇作の特色を認め,その技法を研究することを目的とし,(1)関係研究文献の収集・整理;(2)CD-ROM検索によるテキスト分析;(3)(1),(2)を踏まえ,個々の文脈に即した解釈に基づくセネカの劇作技法の抽出,という研究手順をとった.(3)ではとくに,(a)伝統的様式を引き継ぐ要素について,その役割や用法の違いの明確化;(b)独白や傍白に注目,その技法的由来と,その劇的効果を検証;(c)劇以外のジャンルからの影響として,とくにウェルギリウス『アエネイス』とオウィディウス『変身物語』との関係の考察,という三点に留意した. その結果,(1)に関しては,所期の図書・文献の購入をほぼ達成し,(2)に関しては,パソコンの設置に加えて,新たな検索ソフトも導入,謝金による学生の研究補助・資料収集を得て,効率的データ集積を進めた.(3)については,裏面の研究発表の項に記載の論文および図書に成果を発表した.このうち,「ケパルスの物語」は(c)の留意点,とくに,セネカの登場人物の人物造形の手法の源泉を探る観点のもとに,『変身物語』の詩人が登場人物が登場人物に物語を語らせることで,その人物自身の性格づけや動機づけを表現している例を論じた.「『プセウドルス』の策略と芝居」は(b)の留意点,とくに,独白や傍白が多用される喜劇と比較し,また,劇についてのローマ人の意識を探る観点から,プラウトゥスの作品中の劇中劇と,その見立ての手法に論及した,セネカ『悲劇集』では『トロイアの女たち』を担当し,とくに(a)の点に留意して,邦訳に詳細な訳注を付し,解説にその特色を示した. 以上,本年度の計画はほぼ予定どおり達成できたと考えるが,この成果を踏まえ,セネカの哲学的背景,あるいは,ギリシア・ローマ演劇全般へのより広い視野の中で問題を掘り下げることが今後の課題である.
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