Research Abstract |
場の量子論の一般的・公理論的枠組としては,作用素値超函数を用いたWightmanの定式化と並んで,作用素代数のつくるlocal netに基づいた荒木-Haag-Kastlerの代数的定式化が知られている.この何れの立場も未だ抽象的枠組に留まり,現実の物理現象を記述するゲージ理論のような具体的モデルを理論の内部に整合的に取込むことには成功していない.後者の代数的定式化に基づく数学的枠組を具体的モデルに接続することを目標として,局所状態か作る芽の層に着目し,局所物理量によってそれを「座標付け」るという観点から,この定式化の創始者であるR. Haagハンブルク大学名誉教授と研究交流を行った.その結果,局所時空領域のサイズとエネルギーの積を十分小さく取り,そのベキによって誤差の精度を特徴付けるという見方を採用すると,局所状態指定の精度を上げるにつれて,物理量が入れ子の形に整序されるfiltration構造が現れることを明らかにした.今のところ明確な帰結が得られたのは自由場の場合に限られるが,この構造を相互作用のある場合に拡張することは,摂動論的な繰込み群の文脈で有効に用いられてきたoperator product expansionの一般的考察に重要と思われる. このようにして得られた局所状態を貼合せて大域的状態を構成するためには,相互作用のある場合,場の量の積を含んだ場の運動方程式が重要となるが,上の方向での考察はこの目的に有用と考えられる.また,昨年夏1ヵ月余数理解析研究所に滞在し,本年も8月から半年足らずの滞在を予定しているD. Buchholzハンブルク大学教授と共同で,局所状態の概念を用いて「局所平衡・大城非平衡」な状態概念を定式化する問題を研究であり,ここにも有効な具体的応用の道があると期待している.
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