Research Abstract |
我々はこれまで,シクロペンタジエニル基(Cp)を有するメタラジカルコゲノレン錯体[CpM (E_2C_2X, Y)]のメタラジカルコゲノレン環は相反する反応特性,すなわち不飽和性と芳香族性が微妙なバランスの上に共存している興味ある化合物群であることを明らかにしてきた。最近,我々はホストーゲスト相互作用による分子認識・分子識別機能を有する代表的な化合物であるシクロデキストリン(CyD)と本錯体[CpM (E_2C_2X, Y)]との間で1:1分子包接錯体を生成することを見い出した。即ち,本現象は水に不溶な錯体がCyDの水溶液に可溶化出来ることであり,有機金属体とCyDとの包接現象の解明と包接体(水溶化した錯体)の利用など,新たな研究分野として注目された。 上記の背景のもとに,本錯体[Z-CpM (E_2C_2X, Y)]とCyDとの包接現象の解明と包接体の性質を次の点から明らかにした。 1,錯体[CpCo (S_2C_2(COOMe)_2))]とβ-CyDとの1:1包接体を水からの再結晶により得た。水溶化した包接体に塩化メチレンを加えると錯体は塩化メチレンに抽出される。1:1包接体の生成は元素分析および^1H-NMR, UV-vis, IR, CD(誘起円偏光二色性)など各種スペクトルデータまた熱重量分析により確認した。また,水系での包接体のサイクリックボルタモグラム(CV)の測定では還元側に1電子の可逆波が観測された。2,水溶化への錯体の置換基(Z, X, Y),金属,カルコゲンなどの影響およびCyDのリングサイズ(α,β,γ)の影響を明かし,包接体の構造を検討した。包接されやすい錯体の条件は,Cp環は無置換体で,置換基X, Yはエステル基のような極性基が必要である。SをSeに代えると錯体は包接されにくくなる。β-CyDがもっとも錯体を包接しやす。以上より,包接体の構造はβ-CyDの中空にCpCoのCp環が入り込んだ構造をしていると思われる。なお,CACheによる分子力場計算の結果でも錯体は包接されることにより安定化されることが証明された。現在,包接体の単結晶X-線構造解析を試みているが,測定中に結晶水がとぶためか,いまだ十分な反射データが得られてなく,今後の課題である。3,[CpCo (S_2C_2Ph, Br))のBrをNa_2S_2により-S-S-化する反応は従来は不均一系で行われていたが錯体が包接されることにより,水溶化するので効率よく進行し,今後の利用が期待された。
|