Research Abstract |
ヒトと家畜との相互関係の向上に貢献するためには,動物を飼育するということの原点に戻り,家畜に接しながら,その習性を知るとともに,家畜の認知能力についても理解することで,ヒトに対する反応を学ぶことが重要となってくる.そこで本研究は,供試動物として5頭のミニブタを用い,ヒトに対する認知能力を行動学的手法を用いて調査した.実験方法は,スキナ-箱を用いたオペラント条件づけ学習法に基づく同時識別法とし,面識のないヒトに対して,実験前から慣れ親しんだ特定のヒト(ハンドラ-)をブタに選択させることを試みた.ブタは実験のための馴致と訓練に先立つ2週間,ハンドラ-と毎日30分間過ごし,その間にハンドリング処理として報酬飼料の給与とハンドラ-との体の接触を受けた.実験は,実験1と実験2からなった.実験1では,実験前にまったく面識のなかったストレンジャーに対してハンドラ-をブタに選択させた.供試ブタの5頭すべてが,4セッション以内にハンドラ-を選択することができた.実験2では,ハンドラ-とストレンジャーに対する手がかりを減らすことが,ブタの識別行動にどのような影響を及ぼすのかについて調査した.ヒトに対する手がかりは,その姿,声,臭いとし,この3つの手がかりをそれぞれ可能な限り覆うことで実験を行った.結果には固体差が認められ,手がかりを減らすとまったく識別できなくなった固体もいたが,手がかりの種類にかかわらず識別できた固体もいた.以上の結果から,ミニブタは,ヒトを,少なくともその姿,声,臭いの3要素を基にして認知しているものと考えられた.しかし,手がかりを減らしたことにより,反応の固体差が認められたことから,認知の方法は各固体によって異なることが示唆された.今後の家畜の管理については,反応の固体差を考慮したハンドリングが必要であると考えられた.
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