Research Abstract |
本研究は,最近,北海道および岩手県において高泌乳牛が突然,起立不能に陥り,苦悶・呻吟し,著しい低Ca血症と心臓の巣状性壊死を呈して急死する疾患の原因究明を目的としたものである.研究計画に基づき,得られた成果は以下の通りである. 1.自然発症例の検討(J.Comp.Path.113,373-382,1995) 症例13頭について,臨床学的,病理学的および免疫学的に検討した.その結果,(1)全症例に共通した臨床所見は,起立不能症,苦悶,心悸亢進および呼吸困難であり,それらの所見は,従来までの起立不能症の所見とは異なっていることを明らかにした.(2)検査所見では,著しい低Ca血症(3.6±1.3mg/dl)とECGの心房細動を呈していた.(3)心筋の共通した病理組織学的所見では好中球の浸潤をともなった巣状性壊死が見られた.これらの結果は,従来からの低Ca血症を特徴とする乳熱や乳牛の起立不能症とは異なった疾患と位置づけられる可能性が示唆された. 2.実験的研究(第121回日本獣医学会発表) 本研究は,低Ca血症と本症との関連性を究明する目的で山羊を用いて血液透析を施し,低Ca血症を作出したものである.その結果,血漿Ca濃度およびイオンCa濃度は対照群と比較して作出群は明らかに低下し,その臨床症状は自然発症例の報告と一致した.したがって,本方法は今後本症例および乳熱などの低Ca血症の病因を究明するための実験的方法として,極めて有用であることが判明した.現在,本方法によって得た低Ca血症例についての病理組織を検索中である. 3.実態的調査研究(J.Vet.Med.Sci.発表予定) 岩手県における二農場を一年間にわたり調査し,その間に6例の同様の症例を得ることが出来た.それらの分娩前後の経過を血中ホルモンを中心に詳細に観察するとともに,心筋の電子顕微鏡学的検索を現在行っているところである. 以上のごとく,本症の病因は著しい低Ca血症によって誘発された心筋異常と考えられる.しかし,その要因は単一ではなく高泌乳牛における脂質代謝の亢進異常などが複雑に関与している可能性が本研究によって示唆された.今後は現在検索中のデータを加え,本症の病因を明らかにして行く考えである.
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