Research Abstract |
本研究の目的は,プロトンポンプ阻害薬オメプラゾールの視覚障害惹起可能性を検証するため,ウサギ毛様体非色素性上皮細胞にH,K-ATPase様蛋白が存在しているという過去の報告を追試し,毛様体非色素性上皮細胞におけるH,K-ATPase様蛋白の機能,およびそのオメプラゾールによる抑制が観察されるかどうかを検討することであった. ウサギ胃粘膜からH,K-APTaseを精製し,多くのマウスを免疫してポリクローナル抗体を作成し,更にこれらのマウスの脾細胞をミエローマと融合させて,モノクローナル抗体を作成した.いずれのポリクローナル抗体も,H,K-ATPaseのα・βサブユニットを認識したが,モノクローナル抗体は,H,K-ATPaseのαサブユニットのみを認識した.しかしながらFainらの報告と異なり,いずれの抗体も,ウサギ毛様体上皮細胞を特異的に免疫染色することはなく,ウェスタンブロット解析によっても,抗体陽性のバンドは認められなかった.ただし,毛様体上皮細胞の可溶性画分中,H,K-ATPaseのα・βサブユニットとは異なる,約70kDaのバンドを認識する抗体が1種のみ得られた.これは毛様体上皮細胞に,H,K-ATPaseとエピトープが共通する蛋白が存在する可能性を示し,現在この蛋白の一次構造を解析中である. 毛様体上皮細胞に機能的H,K-ATPase様酵素が存在する可能性を探るため,急性単離したウサギ毛様体上皮細胞にpH感受性色素BCECFをロードし,Argus-50画像解析装置を用いて細胞内pHを測定した.毛様体上皮細胞は,塩化アンモニウム負荷や炭酸脱水酵素阻害薬で細胞内pHが低下したが,オメプラゾールによっては変化がなく,毛様体上皮にオメプラゾール感受性眼房水分泌があることを示唆する結果は得られなかった. 糖尿病モデルラットを用いる実験の基礎検討として,ラットよりH,K-ATPaseを精製し,モノクローナル抗体を作成したが,ポリクローナル抗体の段階でも,毛様体上皮中の蛋白を認識しなかった. 以上のことから,プロトンポンプ阻害薬オメプラゾールが視覚障害を惹起する可能性があるとしても,毛様体上皮細胞が作用点である可能性は薄いと考えられた.
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