Research Abstract |
高齢者では若年者に比べて体液量,特に細胞内液が減少する.これは老化による腎機能の低下に起因すると考えられる.この低下は,高齢者における保水力の低下とともに水分代謝異常,特に脱水症を引き起こしやすい.実際,平成6,7年の夏期には記録的な熱波を経験し,高齢者の熱中症等の暑熱障害が,また阪神大震災では水分補給の不十分さからくる脱水による障害が問題となった.この水分代謝異常の予防には,高齢者に適した水分の摂取が不可欠であるが,健康な高齢者の水分代謝を総合的に解説したものはほとんど見当たらないのが現状である. そこで,我々は,高齢者における水分代謝異常,特に脱水を予防するための飲水指導を含む生活指導の基礎的な資料を得る目的として,平成7年度には,まず,地域在住の健康な高齢者34名(男性9名,女性25名,平均年齢73.1歳)を対象として,健康状態やライフスタイル,消費エネルギー,1日の水分摂取量および尿量,尿の成分Na,k,Cl,クレアチニン,浸透圧を測定し,水分出納(以下,水分代謝量)や飲水行動の実態を調査した(調査1).さらに,加齢による口渇機能や味覚の変化が予測されるので,上述の対象者の中の71歳の高齢女性1名,若年女性7名(平均年齢21.1歳)に対し,絶飲絶食による軽度の脱水(体重の約1%)を負荷し,塩辛さおよび口渇感の程度をVAS法で調査した(調査2). 調査1の結果,1)1日の水分代謝量は,男性2.8リットル,女性2.7リットルであった.その内訳は,飲用水は男性1.8リットル,女性は1.6リットル,食物による摂取は男女とも0.9リットル,燃焼水も男女とも0.2リットルであった.飲用水の内容は,日本茶と麦茶が主なものであった.2)1日の排尿量は,男性1.4リットル,女性1.5リットルであった.3)1日の水分代謝量は,健康一般な成人(2.5リットル)に比べてやや多かったが,これは飲用水摂取量が多かったことに起因していた.つまり,調査したのは記録的な猛暑であった夏期であり,対象者は1ルットル以上の発汗がみられ,尿量や尿の成分,尿浸透圧から考えて,それに見合った十分な補水がなされ,血液浸透圧の上昇は生じておらず,脱水は生じていないと推測された.よって,高齢者において,夏期では,麦茶や日本茶といった飲用水を1日1リットル以上摂取する限り脱水は防止できることが示唆された.調査2では,塩辛さ・口渇感の感受性は,若年者に比べ高齢者の方がやや鈍いことが認められたが,若年者でも個人差がかなり大きく,これらは,今後の検討課題である.
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