本研究では、まず、広く地球環境規模での環境変化、環境汚染の健康影響を評価するための方法論の一つである空間集積性の検出のための新しい方法論を提案し、その感度を既存の方法と比較検討した。次に、これらの方法を利用して、東京都全域での過去10年間における環境要因の増悪に影響を受けやすい疾患の死亡の空間集積性を検討し、健康影響が顕在化しているか否かを検討した。 具体的には、まず、申請者が1984年に時間集積性の検出のために提案した集積度指数(Biometrics)を空間集積性に拡張し、その性質を理論的かつコンピュータシミュレーションにより検討した。次にこの種の問題のアプローチとして提案されている方法論、特にTurnbullの方法(Amer. J. Epid.、1990)、Besag and Newellの方法(J. Royal Stat. Soc.、1991)と性質の比較をコンピュータシミュレーションにより行い、現実のデータに適用する際に必要な集積性の強弱(未知)に応じた最適なパラメータ設計の検討をおこなった。この結果、新しく提案した方法論の有効性が示唆された。この結果は雑誌Statis tics in Medicine (1995)に発表した。 つぎに、昭和59年から平成5年までの10年間における呼吸器系疾患、先天性異常、皮膚がん、リンパ組織関連の悪性新生物などの死亡情報を人口動態調査より収集した。人口情報は国勢調査を利用した。解析方法は、市区町村単位にデータを編集し、死亡率の時間的傾向、空間的集積性を上記の指標で検討した。その結果、喘息、肺癌、皮膚癌などに興味深い地域集積性が検出され、より詳細な調査へ進むてがかりが得られた。
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