Research Abstract |
本研究では,認知心理学的アプローチにより次の問題を解明することを目的としていた.(a)どのようなタイプの韻律情報が我々の認知,特に記憶成績を促進するのであろうか.(b)作動記憶における韻律情報は,我々の語彙の習得にどのように関与しているのであろうか.この研究目的を達成するために、構音抑制法を用いた.韻律情報による記憶の促進と構音抑制による妨害効果の交互作用を検討し,促進効果の生起メカニズムを考察した. 記憶におけるリズムの抑揚の効果 記憶課題のみを遂行する条件では,次のような実験結果が得られた.(a)先行研究により,系列再生の成績が,リズム(韻律情報)の付加によって促進することが知られているので,まず,1つの条件ではリズムを記銘材料に付加して提示し,記憶成績の促進を確認した.(b)ここでは,最も記憶を促進すると考えられている3拍子のりずむで記銘材料を呈示した(リズム(条件).(c)さらに,抑揚が記憶促進するという,先の研究結果を追試するために,抑揚条件も設定した.その結果この条件においても,リズム条件ほどではないが,通常の呈示方法の条件よりも記憶成績が向上した. 構音抑制法による検討(d)構音抑制法を用いた二重課題条件を設定した.その結果,(e)リズム条件では,構音抑制によって再生成績が低下したにも拘らず,通常の呈示方法よりも成績がよかった.(f)これに対して,抑揚条件では,構音抑制との同時遂行によって,記憶の促進効果が見られなくなった. 以上の結果は,推計学的に確認されたものである.韻律情報が作動記憶システムに保持されているとともに,それらの情報が音素情報の保持を促進するということが確認された.そして,時間的長短からなるリズムによる影響と,抑揚による影響には,異なるメカニズムが存在するという可能性が示された.その違いは,おそらく,リズムを作り出すシステムと抑揚を作り出すシステムの依拠している発声器官が異なっていることにあるのではないか,と考察している.
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