Research Abstract |
【目的】本研究では老年期の抑制機能の特徴についてさらに検討した.特に,反応を抑制することが反応の始動に与える影響について実験的に検討した。 【方法】対象:軽費老人ホームに在園する69歳から90歳までの,高齢者26名(男6名,女20名,平均年齢80.7歳).また,大学生・大学院生26名のデータを比較参考資料とした. 実験手続き:本実験は,2つの実験から構成されている(便宜上,これを実験A,実験Bとする).いずれの実験も,刺激の提示にあわせて,反応スイッチを押す課題を個別に行なった. 実験条件:実験A,Bともに,同じ3つの条件を設けた.実験A,B間で異なる点は,実験Bで,CRT画面への刺激の提示にあわせて,コンピュータ内蔵のBEEP音を提示したことである.刺激の提示にあわせて,BEEP音を提示することにより,実験Bでは,スイッチを押す反応を促進させた(予備実験から,反応潜時の短縮が確認されている). 実験A,B間で共通する3つの条件のうち,最初の条件は,CRT画面に赤丸(直径6cm)が提示されたら,なるべく早く反応スイッチを押す課題である.この条件により,単に刺激が提示されてから.スイッチを押すまでの反応潜時(ベースライン)を測定した.続く条件は,赤丸が提示された時には反応スイッチを押し,緑丸が提示された時には反応スイッチを押さない(5秒間)課題である.もう一つは,この条件の逆で,緑丸が提示された時には反応スイッチを押し,赤丸が提示された時には押さない課題である。 【結果と考察】老年群・青年群ともに,誤反応はほとんどみられなかった。しかし,老年群では,促進された反応を抑制しなければならない場面において,逆に反応を始動しなければならない時,ベースラインに比べ反応潜時が増加する傾向が顕著であった.老年群では,抑制機能が活性化すると,その影響が反応の始動にまで波及しやすいことが示唆された.
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