Research Abstract |
本研究は,会計基準設定主体,財務諸表作成者そして財務諸表利用者のそれぞれの観点から,派生金融商品(デリバティブ)取引に関する財務諸表上での時価情報の開示についてどのような意識を持っているかを調査研究することを目的とした. 会計基準設定主体としては,公認会計士協会,会計・法律学者を中心に調査を行った.そこでは,わが国における企業会計は,「企業会計原則」のほかに「商法」「証券取引法」「税法」の法規制が相互に影響を及ぼしあっており,「取得原価主義-実現主義」という計算構造のもと処分可能利益の算定が主目的となっているため,米国のような投資意思決定目的を主目的におく企業会計システムとは異なる点を指摘する意見が多かった.その結果,わが国においては,財務諸表本体で,派生金融商品取引の時価情報を開示することは困難であり,その情報開示は,注記情報とすべきであるとの意見が多かった. 財務諸表作成者の側では,派生金融商品取引を営業の主取引の一つとしておこなっている銀行,証券会社を中心に行った.これらの業界においては,大蔵省の指導のもと,銀行に関しては銀行法の改正により,証券会社に関しては日本証券業協会の統一経理基準の改正により,時価会計の適用が決定されることになっており,このような流れを受けて,派生金融商品の時価情報の開示に関しては,積極的な姿勢が多く見られた. 財務諸表利用者に関しては,証券アナリスト協会を中心に調査を行った.そこでは,銀行や証券会社において時価情報の開示が進められていることに関しては基本的に賛成の姿勢を示していたが,一方で派生金融商品取引に関しては,個々の取引毎の時価情報の開示ではなく,企業全体で負うリスクをネットで開示することが企業の経済実態開示の側面からは,必要であるとの指摘があった. 以上が本研究で行った調査研究の結果である.今後は,この調査結果を考慮して,わが国の企業会計制度において,派生金融商品取引に関してどのような情報開示の方法が望ましいかを検討することにする.
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