Research Abstract |
この研究では,1991年9月に米国で打ち上げられたUpper Atmosphere Research Satellite(UARS)に搭載されているCryogenic Limb Array Etalon Spectrometer(CLAES)の温度データ,および観測期間が短く古い(1978年10月から1979年5月まで)がNimbus7に搭載されたLimb Infrared Monitor of the Stratosphere(LIMS)の温度,オゾン,水蒸気データをもちいて,下部成層圏赤道ケルビン波のグローバルな構造を明らかにした. まず,CLAESの温度データからは,下部成層圏において東西波数1の偏差が約15日の周期で東進しているのを見出した.この波動の鉛直波長は約10kmで波の位相はとしては高さとともに東傾している.これらの特徴は理論的に予測されているいわゆる“遅い"ケルビン波の構造と一致する.さらに,時・空間スペクトル解析の手法を用い,遅いケルビン波の活動性をCLAES観測全期間(1992年1月から1993年4月までの約16カ月)にわたって調べた.その結果,赤道域下部成層圏で見られる準2年周期振動(QBO)と関連して,期間のはじめのQBC東風領域では活動性が大きく,期間の後半に向かいQBO西風領域が広がるにつれて活動性が減衰していくことがわかった.これらの伝播特性の特徴は波の伝播理論から予測されるものともよく一致している. 次に,LIMSのデータを用いケルビン波の存在について調べた.これまでLIMSの観測期間はQBOの西風領域にあたるため遅いケルビン波は観測されないとされていたが,期間後半の約2カ月の間に温度場のみならず下部成層圏では光化学的寿命の長いオゾンや水蒸気といった微量成分の場にも遅いケルビン波のシグナルをとらえられることが分かった.力学的な効果によって誘起されたこのオゾン,水蒸気の場におけるケルビン波の振幅は,温度場の振幅を用いて理論的に求められる値と定性的に一致していることも確認できた.
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