Research Abstract |
黒潮水域に分布中心をもつ生物種-暖流系種-が,150万年前以降,間氷期ごとに日本海に現われた.暖流系種の出現は,間氷期になり対馬海流が日本海に流入したためで,一方,その後の気候寒冷化が日本海における暖流系種の死滅をもたらした.この暖流系種の出現と死滅が日本海スケールで同時におきたならば,それらを時間面として,氷河性海水準変動に伴う日本海の海洋環境,堆積物,生物の変動様式を数万年オーダの時間分解能で解明できる.そこで,暖流系種の出現・死滅の同時性を検討し,さらにその有用性を高めるため,2つの研究を行った.1,暖流系種の出現・死滅の同時性を検討するため,大桑層と同時代の青森県下北半島の浜田層を調査した.2,貝化石の産出が散在的な地層で,暖流系種の出現層準を認定するには,他の生物に頼りざるをえない.その生物としては表層水中に住む暖流系浮遊性有孔虫が最適である.そこで,貝化石から暖流系種の出現層準が判明している大桑層において,その出現層準と暖流系浮遊性有孔虫の出現層準との層位関係を解明する. その結果,1,浜田層の岩相・貝化石群集の検討により,従来の研究結果(Kanazawa,1990)を確認でき,さらに氷期-間氷期サイクルに伴う3つの堆積サイクルを認定できた.浜田層より採取した試料ならびにその地質時代については解析中である.2,暖流系浮遊性有孔虫の出現層準と暖流系貝化石の出現層準とは,必ずしも一致しないことが分かった.1つの例では,前者は後者よりも約1m下に位置する.これは,前時代の遺骸の混入もしくは極一時的にしか対馬海流が流入しない時代が続いたかのどちらかであろう(有孔虫よりも寿命の長い軟体動物が生存可能なほどには,対馬海流が流入しなかった).いずれにせよ,この不一致は,暖流系種の出現・死滅の層準を認定する時に,基準に用いる生物種の違いを考慮しなくてはならないことを意味し,この研究結果は重要である.
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