Research Abstract |
酸化物高温超伝導体YBa_2Cu_3O_7において,その不可逆曲線の発現機構を実験的に解明した.微小交流磁界重畳法によって,超伝導体の臨界電流密度とピンニングポテンシャルを同時に測定した.また,各磁界における臨界電流密度の温度依存性から不可逆温度を見積もった.不可逆温度付近では,ピンニングポテンシャルの大きさが,おおよそ量子化磁束の活性化エネルギーk_BTに等しいことを示した.つまり,この温度領域ではピンニングポテンシャルがピンとして働いていないために,臨界電流密度が零になることが明らかとなった.また,ピンニングポテンシャルが大きくなると不可逆曲線が高磁界側に移動することを確かめた.このことは,不可逆曲線が試料の作成条件で変化するものであり,熱力学的相転移によって一意的に決定される境界線でないとを示している. 次に,量子化磁束の振る舞いを明らかにするために,Maxwell方程式を数値的に解くことにより,磁化緩和のシミュレーションを行った.この際,磁束クリープにおけるピンニングポテンシャルの電流密度依存性として,U(J)=(U_0/μ)[(J_c/J)μ-1]を採用した.ここで,U_0とJ_cは熱活性を無視した時のピンポテンシャルエネルギーと臨界電流密度である.このピンニングポテンシャルの表式を使って,実験的に観測された磁束クリープの初期過程での非対数的な時間依存性を再現した.さらに,磁化緩和曲線を実験結果と比較することによりμの値を求め,その温度依存性から量子化磁束のダイナミクスのメカニズムについて議論した.その結果,μの値は負を示し,ほとんど温度に依存しなかった.これは,電流が零の極限でvortex-glass状態が実現していないことを示している.
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