Research Abstract |
本研究は,攪拌ストレスに対する植物細胞の代謝応答機構を解明することを目的とした。これまでの検討により,細胞破壊が生じる以前に膜透過選択性,呼吸活性,ATP含有量が,攪拌速度の増加に伴い低下すること,攪拌ストレスにより細胞内カルシウムイオン濃度が増加することを確認した。 本年度は,ベニバナ細胞を用いてNAD(P)H,アクチン繊維量,活性酸素生成量の攪拌ストレスによる変化の測定およびカルシウム阻害剤の効果の検討を行った。攪拌槽培養は,6枚翼ディスクタービン型攪拌翼,邪魔板(3枚,幅8mm)付き攪拌槽(培養液量550mL)を用いて,攪拌速度500rpmの条件で行った。対照培養としてフラスコ振とう培養を行った。NAD(P)Hは自蛍光測定,アクチン繊維量は特異吸着を行う蛍光色素NBD-ファラシジンの吸着量測定,活性酸素量はNBT還元活性測定により評価を行った。 その結果,NAD(P)H,アクチン繊維量,活性酸素生成量のいずれも攪拌ストレスにより低下を示した。また細胞膜に存在する膜電位依存性カルシウムチャンネルの阻害剤であるベラパミルを添加した場合,攪拌ストレスによる細胞内カルシウム濃度の増加が抑制されるとともに,NAD(P)H,アクチン繊維量,活性酸素生成量および膜の透過選択性の低下も抑制された。活性酸素生成量については、アジ化ナトリウムの添加によっても低下が抑制されたため,アジ化ナトリウムにより活性が阻害される活性酸素消去系であるカタラーゼの寄与が推察された。以上の結果より,攪拌ストレスに対する代謝応答として,NAD(P)H消費反応,カタラーゼ活性化,アクチンの重合阻害が,細胞外から電位依存性チャンネルを通じて動員されるカルシウムイオンの媒介により生じていることが推察された。
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