Research Abstract |
人体に有害とされている硝酸イオンは,植物体内でアンモニウムイオンへと還元される。NO_3-N中断処理を行う際に人工光源による補光を行えば,急速に葉内の硝酸イオンの濃度が低下する可能性がある。本試験では,人工光源を利用した葉菜類の収量ならびに品質制御のための基礎的知見を得ることを目的として,NO_3-N中断処理後のホウレンソウの生育と硝酸イオン含有量に補光が及ぼす影響について調査した。 材料および方法:試験には,ホウレンソウ品種‘オ-ライ'((株)キタイ種苗)を供試した。定植後28日目からNO_3-N中断処理と補光処理を行った。NO_3-N中断処理区における補光処理は,東芝製陽光ランプ,黄色光ランプ,青色光ランプ,紫外線蛍光灯を使用した。処理開始後,植物体地上部を採取し,含有成分について調査した。 結果および考察:硝酸イオン濃度は,NO_3-N中断処理後,日数が経過するにつれて減少したが,その減少の程度は補光区で大きくなる傾向を示した。処理開始後2日目に葉柄では,補光区平均の硝酸イオン濃度が無補光区の85%,葉身の場合54%となって共に無補光区との差が最も大きくなり,光源の種類によって異なる部分があるものの補光が,葉内の硝酸イオン濃度の減少を促進するように作用したことが示された。しかし,処理開始後4日目には,補光区と無補光区の差はなくなった。本試験の結果は,一時的ではあるものの夜間補光が葉内の硝酸還元酵素などの活性を高め,NO_3-N中断処理後の硝酸イオン濃度低減を促進した可能性を示唆している。しかし,葉内の硝酸イオン濃度があるレベルに達すると窒素代謝が抑制され,硝酸イオン濃度の減少が停止することも示された。今後は,この反応が光強度依存性であるか確認し,また,硝酸還元酵素の活性が補光中にどのように変化するか調査する必要がある。
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