Research Abstract |
高含水率農産物の組織は,その大部分が液胞で占められている細胞と細胞間隙中に存在するガスから構成されており,これまでの研究からこの組織内ガスの存在はその音速に大きな影響を与えることがわかっている.超音波特性は媒質の弾性的特性と等価であり,農産物の力学的特性にも組織内の空隙が影響を与えていると思われる. 本研究では体積弾性率とヤング率に注目し,これらの弾性率と気泡含有率との関係を気泡分散モデルを用いて理論化し,大根を用いた実測結果との比較検討を行った.但し理論では瞬間弾性率考えているが,実測時には緩和の影響を除くことは不可能なのでみかけの弾性率を計測した.従って厳密には理論値との定量的な比較は困難であり,もっぱら定性的な比較を行った. その結果,体積弾性率は理論と同じく気泡含有率が低下するにつれて大きくなる傾向にあることがわかった.一方ヤング率と気泡含有率との間には有意な関係が見いだせなかった.理論式によれば,ヤング率は気泡含有率が低下するにつれて大きくなる傾向にあるが,その変化率は体積弾性率の変化率に比較して極めて小さく,実際には測定誤差内におさまってしまうことが十分考えられる.また細胞実質自体の個体差の影響を排するために農産物の雰囲気圧を高めて同一試料中の気泡含有率を減小させながら各弾性率を計測したところ,同様の結果を得た.以上のことから,大根の体積弾性率は組織内ガスの含有率に支配され,一方ヤング率は組織内ガスの含有率の影響はほとんどないと結論できる.おそらくヤング率は細胞壁強度や細胞の膨圧に依存するものと思われる. 現在,果菜類に代表される高含水率農産物の力学的特性の体系的把握を目指して,組織内ガス含有率の異なる人参,玉ねぎ,リンゴ等を用いて同様の実験を行っている.
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