Research Abstract |
【目的】 弁膜は加齢にともない多くの病変を有することは病理組織学的検討により既に知られているが,各病変部の組織性状については未だ知られていない。本研究では高周波超音波顕微鏡を用いて大動脈弁などの心臓弁膜の超音波減衰量および音速の計測を行い,弁膜の物性特性の定量評価をはかり,ヒトにおける弁膜の老化,変性による組織特性の変化について検討した。 【方法】 対象はヒト剖検例から得られた弁膜で,ホルマリン固定されたものをパラフィン包埋後,厚さ4μmの薄膜切片として脱パラフィン後,無染色の状態で超音波顕微鏡用試料とした。さらにその連続切片にてH-E染色,Elastica-Van Gieson染色,Azan染色を行い,光学顕微鏡用試料として超音波顕微鏡像と対比した。超音波顕微鏡では弁膜の組織構造の観察と微小領域における超音波減衰量,音速の計測を行った。 【結果】 1.超音波顕微鏡像では正常大動脈弁は弁基部から弁腹部までにわたりFibrosa(F),Spongiosa(S),Ventricularis(V)の3層構造が鮮明に観察された。膠原線維が豊富で大動脈弁の主な支持組織とされるFibrosaが超音波減衰量は最大であった(F;2.3±0.3dB,S:1.2±0.3dB,V:1.5±0.2dB,P<0.0001)。また音速もFibrosaが最大であった(F:1630±39m/s,S:1532±26m/s,V:1564±32m/s,P<0.0001)。さらに弁尖部は光顕像では一様な膠原線維で占められ,超音波顕微鏡では一様に濃く描出された。2.肥厚した大動脈弁弁尖部は海綿状組織増大部(SP)と線維性肥厚部(FS)で占められていた。線維性肥厚部の超音波減衰量は4.7±0.6dB,音速は1659±25m/sとすべての弁膜組織の中で最大であった(P<0.0001)。海綿状組織増大部はSpongiosaと同程度の値であった。3.すべての弁膜組織を対象として超音波減衰量と音速の間にはr=0.82の正相関を認めた。 【結論】超音波顕微鏡は大動脈弁の微細構造を描出可能であり、正常大動脈弁では膠原線維に富むFibrosaが3層構造のうち超音波減衰量,高速が最大であった。また正常大動脈弁の弁尖部は超音波減衰量,音速が比較的均一であったが,加齢による肥厚がみられる大動脈弁弁尖部では海綿状組織増大部が超音波減衰量,音速は小であり,線維性肥厚部が膠原線維を反映して超音波減衰量,音速は大であり,組織性状が不均一であることが示された。
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