Research Abstract |
本研究はインスリン依存型糖尿病(IDDM)の発症における環境因子(ウィルス感染症)の役割をトランスジェニック(Tg)マウスの系を用いて明らかにすることを目的にしている。 本年はウィルス感染時にリンパ球において産生されるサイトカインであるインターフェロンγ(IFN-γ)を発現するTgを作成し,その解析を行った。また,本TgとIDDMを自然発症するNOD(non-obese-diabetic)マウスとの交配を行い,後述の新知見を得た。 1.IFN-γ発現Tgマウスの作製および解析 (1)IFN-γ発現と糖尿病発症の関連性 得られたIFN-γTgマウス4系統のうち1系統において生後15週までに約半数で糖尿病を発症した。糖尿病発症の雌雄差はなく,膵組織像は膵ラ氏島及び膵管周囲にリンパ球の浸潤を認め,ヒトIDDM類似の病理像を呈した。糖尿病を発症しなかった残り半数のTgマウスでは炎症の程度は軽度だった。 (2)IFN-γの発現様式と糖尿病発症の関連性 糖尿病を発症するTgマウスの系統はIFN-γの発現を膵臓において認めたが,他の系統では膵臓での発現を認めなかった。また,抗IFN-γ抗体による実験では糖尿病の発症を完全に抑制でき,膵組織像も正常であった。 2.IFN-γTgマウスとNODマウスとの交配解析 得られた糖尿病発症系統TgマウスをNODマウスと交配させ,交配第1世代及びNODマウスとの戻し交配第1世代を作製した。いずれのマウスも膵におけるIFN-γの発現が認められるにもかかわらず,糖尿病の発症はなかった。 以上の結果を要約すると,IFN-γの発現はヒトIDDM様の糖尿病を発症させ得るが,そのためにはその発現は,膵において起こる必要があり,また,その発現量はある程度の量が必要である。さらに顕性の糖尿病発症のためには,遺伝因子の関与が必要であることが示唆された。今後は,免疫系の詳細な解析と交配マウスを用いた顕性糖尿病発症遺伝子の解析を行う予定である。
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