Research Abstract |
視床下部は下行性疼痛抑制系として直接的鎮痛に関与すると同時に,情動中枢として心理的な疼痛の修飾にも関与すると考えられる.これらの機能は脳内モノアミン代謝と密接に関係している.われわれはラットを用いて,全脊麻が難治性疼痛を軽減する作用機序として,視床下部におけるモノアミン代謝が関与しているかどうかを調べた. 対象および方法:生後8〜10週齢Wistar系雄性ラット(250〜300g)を用いた.視床下部へ微少透析プローブを挿入し,解析プローブにリンゲル液を2μl/minの流速で灌流した.灌流液を15分毎に採取し,オートインジェクターでEicompak MA-5 ODSカラムに注入し,ドーパミン及びセロトニンの代謝産物を電気化学検出器で測定した。ラットを抱水クロラールで麻酔し,挿管後人工呼吸下に後部下芽刺によりクモ膜下腔に2%リドカイン10μlを注入し,瞳孔散大の確認により全脊麻とした. 結果:全脊麻の前後でセロトニンの代謝産物である5-HIAA,ドーパミンの代謝産物であるDOPACやHVAには有意な変化は認められなかった. 考察:全脊麻は難治性疼痛に対する有力な治療手段として知られるが,その作用機序を調べた研究はない.疼痛および鎮痛のメカニズムにはいくつもの神経伝達物質が複雑に関与していると思われるが,本研究においてはモノアミンに注目した.本研究結果は,全脊麻そのものは,正常ラット視床下部のモノアミン代謝に影響を与えないことを示している.しかし,難治性疼痛を有する個体の脳内モノアミン代謝には,影響するかも知れない.慢性難治性疼痛モデルでの実験の追加が必要である. 今回の結果は第30回日本ペインクリニック学会で発表予定であり,現在,演題申込中である.
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