Research Abstract |
歯原性上皮は本来歯の発生に関わる組織であるが,嚢胞や腫瘍への病的変化も稀ではない。エナメル上皮腫は歯原性上皮由来の疾患として発症頻度が高く,その特徴の一つに良性腫瘍であるにも関わらず局所浸潤の傾向が強く再発しやすいことがあげられる。本研究では,エナメル上皮腫の間質への侵襲機構を解明するため,基質蛋白質分解酵素であるmatrix metalloproteinase(MMP)の発現・局在について免疫組織化学的に検索した。 1.組織切片および一次抗体の検討 本学歯学部附属病院口腔外科での生検・手術より得られた歯胚4例,エナメル上皮腫16例,悪性エナメル上皮腫2例,口腔扁平上皮癌3例を,4%パラホルムアルデヒドPBS溶液で一晩固定し,通法に従いパラフィン包埋し,3μmの連続切片として用いた。一次抗体としては,MMP-1(間質コラゲナーゼ),MMP-3(ストロムライシン),MMP-9(ゼラチナーゼB)を用いた。免疫組織化学における酵素処理や熱処理などの前処理および一次抗体の希釈濃度を検討した結果,前処理としてはマイクロウェーヴ10分間照射で,また希釈濃度はMMP-1,3,9ともに10μs/mlで良好な染色態度を得た。 2.MMPの発現・局在の検討 歯胚の上皮細胞では,MMP-1が4例中2例(50%)にMMP-3が4例中0例(0%)にMMP-9が4例中1例(25%)に陽性を示した。エナメル上皮腫では,MMP-1が16例中11例(81%)にMMP-3が16例中2例(13%)にMMP-9が16例中9例(56%)に陽性を示した。MMP-1は腫瘍細胞および間質細胞に発現を認めたのに対し,MMP-3,9は間質細胞のみに発現を認めた。悪性エナメル上皮腫では,MMP-1が2例中2例(100%)にMMP-3,9が2例中1例(50%)に陽性を示した。エナメル上皮腫と同様に,MMP-1は腫瘍細胞および間質細胞に発現を認めたのに対し,MMP-3,9は間質細胞のみに発現を認めた。口腔扁平上皮癌では,MMP-1が3例中3例(100%)にMMP-3が3例中2例(67%)MMP-9が3例中3例(100%)に陽性を示した。MMP-1,9は腫瘍細胞および間質細胞に,MMP-3は間質細胞のみに発現を認めた。 以上の結果より,MMPの発現態度は腫瘍により異なり,腫瘍細胞の侵襲性に関与することが示唆された。
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