Research Abstract |
本研究では,Minimalist Program (MP)の枠組みで,論理形式部門(Logical Form : LF)の移動現象とその局所性を考察した。MPのもとでは,たとえば,LFでのWH移動規則は,言語を分析するメカニズムとして不必要である,と見なされている。また,その一方で,再帰代名詞などの照応表現(anaphoric expressions)に対しては,従来とは異なり,LF移動分析が提案されている。本研究の目的は,LF移動現象に対する従来の分析を批判的に検討し,Chomskyが提案するBare Phrase Structure Theoryの枠組みのもとで,これまでのMPに基づく分析において,ほとんど考慮されてこなかったLF移動現象の局所性に焦点をあて,LF移動現象をより包括的に説明することができる理論を提案することにあった。本研究では,LF移動現象の中で,とりわけ,照応表現の局所性に焦点をあて,LF移動現象とその局所性を考察した。本研究の成果として,次の点が解明された。i) LF移動現象,とりわけ,照応表現に関する日本語・英語に課される局所性に関しては,英語では局所的束縛のみであるが,日本語では長距離束縛が許される。ii)その局所性原理は,日本語・英語において,同じ原理が関与している。iii)英語と日本語に観察される違いは,機能範疇(functional categories)が指定辞(specifier)を多重に認可することができるか否かによる。日本語と英語の類型論的研究を通じて,言語の多様性を説明する上で,各々の言語において多重指定辞(multiple specifiers)が認可されるかどうかが重要で,普遍文法の一部を成すパラメータとして設定されなければならないと言える。欧米ヨーロッパ諸語の類型論的研究によって得られたパラダイムを,LF移動現象の類型論的研究を通じて,変革することができたように思われる。今後は,さらに,様々な言語に,多重指定辞に基づく分析を適用し,その妥当性を検証する必要がある。
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