Research Abstract |
動学的経済理論の公理化に向けて,と題された本研究は,「貨幣」「価格メカニズム」「動学的市場構造」といった“通常の経済モデルの外側"に位置する基本的概念に対して,それらを“カテゴリー論的普遍性という概念から公理的に特徴づける"という,新しい統一的な分析手法を確立しようとするものである. 当該年度においては,「貨幣システム」を“カテゴリー論的普遍性"という点から公理論的に特徴づけることに重点を置いた.特にSamuelson(1958)によって述べられた「社会契約」をゲーム論的な解概念として定式化し,「貨幣システム」をその解を実現する普遍的メカニズムとして公理論的に特徴付けることを試みた.大阪大学,神戸大学において同テーマに関する研究発表を行い,多くの有益な意見を頂戴した.さらに95年度理論計量経済学会(学習院大学)での発表「An axiomatic characterization of monetary equilibria in perfect foresight exchange economies」(討論者:筑波大学,金子 守氏)等を経て,その成果は大阪大学経済学部Discussion Paper95-09,November 1995,“A game theoretic characterization of monetary equilibria in perfect foresight double infinity economies."にまとめられている.(現在投稿中のため,後の論文リストには挙げていない.) 上記の論文における手法は,ある一つの経済学的メカニズムを特徴付ける際に,そのメカニズムが少なくともいかなるメカニズムのカテゴリーにおける普遍的要素であるかを明らかにするというものであり,そのカテゴリーを定めるために用いられた公理系をもって,そのメカニズムの公理系と呼ぶべきであるとする立場である.この立場は,通常のexactな公理付け(公理によって規定される対象がunique up to isomorphismである)と比べて,より豊富な公理的特徴付けのありかたを示唆しており,今後の新しい分析手法の確立に向けて,非常に有望な雛形を与えるものである.この点については,現在同手法の一般化に向けての研究を進行中である. また「貨幣と貸借および企業を含んだ動学的一般均衡理論の公理化」に関する資料の収集整理がほぼ終了した.この問題については,大阪大学の大学院生をはじめ,大阪大学社会経済研究所の久我教授を中心とする研究グループや,京都大学の新後閑助教授,東京大学の神谷助教授等の協力を得て,「一時的一般均衡(状態の完全な記述を重視するアプローチ)」および「不完全市場の一般均衡(有り得る均衡パスの記述を重視するアプローチ)」の2方向から研究を進めており,その成果の一部は今年に入って出版された2冊の著書にも,少なからず反映されている. 当初はまずこれらに先立って動学的抽象経済モデルの構築を行う予定であったが,研究を進めるうちに「動学的市場構造」の公理化が先決であるということが明らかになってきたため,ゲーム論的モデルは後回しになっている.
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