Research Abstract |
電気伝導性酸化物における従来の新物質探索の主流は,高温超伝導体に関連したペロブスカイト型酸化物を対象としているが,タリウムが有毒かつ化学的に活性なため,タリウムを含んだ同系の酸化物はほとんど新物質探索の対象とはなっていない.そこで,タリウム系遷移金属酸化物において新しい電気伝導性酸化物の物質探索を行い,得られた新物質の単結晶育成および物性と結晶構造の評価を試みた.新しいタリウム系銅酸化物電気伝導体Tl_2Ba_5Cu_4O_xを見いだし,自己フラックス法による単結晶育成に成功した.電子線マイクロアナライザー法と高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いた化学分析の結果,正確な化学組成はTl_<1.41>Ba_<4.17>Cu_<4.59>O_xであることがわかった.高分解電子顕微鏡原子像観察と粉末X線回折リ-トベルト解析の結果,結晶構造はTl_2Ba_2CaCu_2O_xのCaをBaと空孔で置換した構造を有しており,空間群はI4/mmmであり,格子定数はa=5.5023 (7)Å,c=27.257 (3)Åであることがわかった.Caを置換したBaと空孔は一つおきに配列し秩序化していることがわかった.また,超伝導量子干渉計を用いた磁化の温度依存性測定の結果,本物質は約87Kで超伝導転移することがわかった.転移温度は若干の物質依存性があり最高92Kであった.また,5Kでの下部臨界磁場は約8Oeでありかなり低い値であることがわかった.さらに,磁化の温度依存性の磁場依存性を調べた結果,本物質は磁束ピンニング力がかなり小さいことがわかった.このことから,Baと秩序化しているCaを置換した空孔という格子欠陥は磁束ピンニング力の向上には有効ではないことがわかった.
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