Research Abstract |
Mutans streptococciは,中性・嫌気条件・ブドウ糖制限という環境下では,ブドウ糖より酢酸・ギ酸・エタノールを最終産物として産生する。その時必要となる酵素であるピルビン酸ギ酸リアーゼ(PFL)は当然存在するが,乳酸を産生する酵素である乳酸脱水素酵素(LDH)も存在している。そこで,「ブドウ糖は一旦LDHにより乳酸に代謝され,条件がそろえば,乳酸がピルビン酸にかえり,PFLの作用を受け,ギ酸・酢酸・エタノールに代謝される」という仮説を申請者は立てた。この仮説を検証するためにmutans streptococciによる乳酸代謝について検討した。 まず,mutans streptococciのセロタイプ間の乳酸代謝の比較を行うために,乳酸ナトリウムの濃度を変えて,嫌気的にバッチ培養を行い,最終増殖量および乳酸消費を測定したところ,乳酸は代謝されていなかった。バッチ培養ではブドウ糖制限になるのは増殖終了時のごく一瞬で増殖環境が一定でないため,厳密に増殖環境が規定できるケモスタットを用いて乳酸代謝を検討した。この時,流入乳酸量と増殖速度と等しくなる希釈速度を正確に固定するためにポンプ(備品購入)を用いた。供試菌として,Streptococcus rattus FA-1を用い,中性・嫌気条件・ブドウ糖制限ケモスタット培養を行った。定常状態になったところで乳酸ナトリウムを最終濃度40mMになるように加えたが,その前後での菌体量の差はなく,乳酸は使われないままであった。 乳酸をピルビン酸にもどすためには,多量のNADが必要となり,そのためには,NADH酸化系が働かなければならない。嫌気環境では,この系は動かないため,ピルビン酸に戻らなかったと考えられる。つまり,mutans streptococciは,かぎられた環境でPFLをつくり,その環境がいつくずれてもかまわないように,その環境では必要ないLDHを恒常的に作っていると考えられる。
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