Research Abstract |
本研究の目的は,応答中に接合部および部材の破断を伴う鋼構造骨組の耐震性能を明らかにすることである。研究は大きく実験的研究と数値解析的研究の2つに分けられ,それぞれ以下に示す実績を達成した。 実験的研究:実験による研究の目的は柱梁仕口を代表とする鋼構造接合部周辺に発生する脆性破断に及ぼすひずみ速度の影響を解明することである.この目的のために,柱梁仕口溶接部の梁端部から部分的に取り出した小型試験片を用いた動的載荷実験を行い,材料特性,溶接熱影響による材質変化,ひずみ速度,温度,予ひずみが塑性域での脆性破断にどの様な影響を及ぼすのかを調べた. 実験条件は,柱断面はH‐250×125×9×6,鋼材は比較的破壊靱性の高いSN400B材を使用し,骨格ひずみにして5〜8%の予ひずみを与えた.溶接ディテ-ルは慣用的なスカラップ形式で止端部の返りの有無をパラメータとした.また,載荷条件は準静的および最大50%/秒のひずみ速度,-5℃の温度を与えた.これらの条件下での実験で全て脆性破断は発生せず延性的な挙動を示した.ただし,スカラップ止端の返りの有無と予ひずみの条件は試験体の延性伸びに最大50%の大きな差をもたらした.脆性破断に至らなかった最大の理由は,実規模の比較的大きな断面の部材に見られる破断部周辺の変形拘束が与えられていないことによると考えられる.これらの結果から,溶接接合部の脆性破断に影響を持つ因子として,最大応力・ひずみを経験する領域の変形拘束,溶接ディテ-ルの形状,予ひずみが大きく,地震時に想定される程度のひずみ速度は決定的な支配因子とはなりにくいと予想されることが明らかとなった. 数値解析的研究:数値解析による研究の目的は,応答中に破断を伴う中層鋼構造骨組の地震応答を追跡し,その応答特性を明らかにすることである。本研究では,部材破断を合理的に考慮できる2種類の数値解析プログラムを構築した。プログラムAは,鉛直及び回転方向成分を静的縮約するため破断直後に発生する高周波振動を合理的に取り除くことができる。そのため解析時間が極めて短く、大規模骨組の解析に有効である。一方,プログラムBは,破断直後に発生する高周波振動を精確に追跡することが可能であり、高周波振動が骨組の他の部位に及ぼす影響を観察することができる。これらのプログラムを用いて,梁端部の破断を伴う鋼構造骨組の地震応答を追跡した結果,破断箇所が数層に偏りそれらの層に変形が集中すること,破断時に散逸するエネルギーの入力エネルギーに対する割合が比較的高くなること,破断要素モデルの特性によって骨組全体の挙動が大きく異なること等,破断時特有の諸特性を明らかにした。
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