目的:電算画面で動く図を併用して、散文の理解と算数文章題の達成過程における類推とその教授活動の効果に関する年齢差を実験的に検討し、比例関係の理解やイメージ操作能力と同様に類推能力が上記の課題の達成に寄与する過程の年齢差と、それに即応した教授活動の意義を指摘する。 方法:電算画面で動く図を用いて、(イ)小学5年生と6年生に分数の演算を行わせ、そこで必要な2つの数の協応関係が理解され、その類推が課題解決に寄与する程度の年齢差を指摘した(当学紀要に発表)。さらに(ロ)円を等分して得られた円弧の両端を結んだ線分は正多角形を構成する事実を理解させ、その結果から類推して円を等分して正8角形を作図させた課題の達成過程で示された年齢差を指摘した(Psychologia誌に発表)。(ハ)電算画面で点滅する線分図の重なりを用いて最大公約数と最小公倍数の意味を理解する過程で得られた中1と大学生との差異を指摘し、この過程における類推能力の寄与に関する年齢差を強調した(9年度日本教育心理学会総会で発表予定し、学会誌にも投稿中)。(ニ)養護学校高等部在学の知的発達遅延の生徒と健常の小学1年生について数直線上の大小関係の比較過程における教授活動の効果を指摘した(学会誌に投稿中、昨年度教育心理学会総会で発表)他、(ホ)大学生の散文理解における教授活動と類推能力が、閲読文の内容に関する類似性判断に与える効果を指摘した(当学紀要に発表)。 結果の概略:年少学童や知的発達遅滞の生徒も、適切な教授活動の下では類推能力を活性化させ得るが、類推に必要な写像(mapping)能力の自発的、効率的な運用は年長の被験者で顕在化する傾向を強調した。 研究成果の応用:上記の諸実験用に開発した電算ソフトの一部は、鳴門教育大附属養護学校を基地局とした教材データベースに収納され、電算ネットワークを用いた検索と、現場での利用がなされている現状である。今後は電算システムの更新と教授法の改善に合わせた形で新たなソフトの開発と操作要員の訓練により、僻地教育や遠隔地の学童保育の現場でも利用し得る教授システムの整備が必要と考えられた。
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