Research Abstract |
プラウトゥスの喜劇作品について,とくに多様なイメージの駆使,および,劇作そのものを主題とするような表現意図に着目,そこから発した技法を研究することを目的とし,(1)関係研究文献の収集・整理;(2)CD-ROM検索によるテキスト分析;(3)(1),(2)を踏まえ,個々の文脈に即した解釈に基づくプラウトゥスの劇作技法の抽出,という研究手順をとった.(3)ではとくに,(a)比喩的イメージの効果;(b)独白,傍白,立ち聞き,観客への呼びかけ等,劇的虚構と絡んだ手法についての劇的効果,という二点に焦点を当てた. その結果,(1),(2)に関しては,図書購入を含めた文献・資料収集,検索専用コンピューターを設置してのデータ集積と,それぞれ所期の目標を果たした.(3)については,裏面の研究発表の項に記載の論文に加え,「プラウトゥスの「型破り」」と題する口頭発表(京都大学西洋古典研究会:1996年12月)において成果を発表した.論文「『プセウドルス』の策略と芝居」は最終幕に見られる筋の不整合を検討,登場人物による策略を芝居に見立てる作品展開の上に,筋や人物造形の一貫性よりも個々の場面に織りなされるイメージ表現がこの策略=芝居の正否を左右していることを観察,不整合は,型にはまった展開を予想する観客を驚かすように,『プセウドルス』という作品が仕組んだ策略の一部として解されることを論じた.さらに,口頭発表はこの論文から引き出された問題,プラウトゥスの喜劇に特徴的な役柄「狡猾な奴隷」の代表とも言えるプセウドルスが見せる失敗の意味について考察,ギリシア新喜劇以来の伝統も含めて,どのようなものであれ喜劇の決まった型に対して諧謔を加える点にプラウトゥスの劇作の一つの特色を認めて,これを『バッキス姉妹』『捕虜』などの作品に観察した. 以上,本年度の計画はほぼ予定どおり達成できたと考えるが,この成果を踏まえ,ギリシア・ローマ演劇全般へのより広い視野の中での問題を掘り下げ,また,以後のラテン文学への影響を検討することが今後の課題である.
|