Research Abstract |
前半は,局所量子論の創始者であるハンブルク大学理論物理学第二研究所のRudolf Haag名誉教授とドイツで2週間,その高弟Detlev Buchholz教授と3週間,それぞれ研究討論の機会を持ち,後半はBuchholz教授が5カ月間,Haag名誉教授が1カ月間,報告者の所属研究所に滞在されて,有意義な研究討論を行うことができた。それによって,局所量子論の枠組の中にゲージ理論を組入れる課題や,非平衡統計力学建設で本質的に重要な局所温度状態の数学的定式化の方向性が明確になったことは,今後の研究の深化のために,非常に大きな成果であった。 具体的な形での研究成果としては,以下の論文2点がある。 i)阿部光雄・中西 襄両氏との共著論文:2次元量子重力のBRS量子化において内積の正定値性の証明に対する障害となっていたBRS一重項対を物理的状態空間から整合的に排除する補助条件を見出したもの。 ii)D.Buchholz and I.Ojima、Spontaneous collapse of supersymmetry:上記Buchholz氏との共著論文で現在投稿中。ボ-ズ場とフェルミ場を統一する高い対称性として注目される超対称性の自発的破れに関するもの。真空状態を除くすべての空間並進不変状態において,この対称性は強い自発的破れ(=spontaneous collapse)を被り,変換の生成子は存在しないことを厳密に証明した。したがって、どんな有限温度の熱平衡状態でも超対称性は破れる。通常の対称性の自発的破れでは,変換された状態すべてに亘って平均すれば,対称性を回復できたが,この破れの場合にはそれが不可能である。「supertrace」の導入で超対称性を救うという議論も,上の帰結によって成立たないことがわかる。この研究は,上記の長期的課題とは一見外見を異にするが,ここで重要な役割を演ずる熱力学的相と中心分解の概念は,局所温度状態の定式化について非常に有益な手掛りを与えるものである。
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