Research Abstract |
高圧超伝導体β-Me_4N[Pd(dmit)_2]_2(β-Me_4N塩)は,単位格子に2つの立体交差したカラムを含み,各々のカラム内ではPd(dmit)_2分子が強く二量化している。対カチオンをMe_4Z^+(Z=P,As,Sb)に置換すると,結晶構造が若干変化し(β'-型),二量化の度合いが変化するのに伴い,圧力下における伝導度の挙動が大きく変化する。また,一般に圧力の増加に伴い低温での安定相が絶縁体→金属→絶縁体と変化する。申請者はこの系がHOMOおよびLUMOバンドからなる2バンド系であると考え,電子構造の次元性と電子相関の観点から議論してきた。本研究では,他の高圧超伝導体Et_2Me_2N[Pd(dmit)_2]_2の系については,対カチオンの効果を検討した。Et_2Me_2N塩はβ-Me_4N塩と異なる結晶構造を持ち,単位格子には1つの二量化カラムが含まれるのみである。しかし,今回新たに得られたEt_2Me_2Z(Z=P,As,Sb)塩の構造は,意外にも立体交差カラムを持つβ'-型であった。一連のβ-およびβ'-Me_4Z(Z=N,P,As,Sb)塩は,常圧では2次元的性格の強いHOMOバンドが一種のモット絶縁化を起こしている系と考えられる。加圧すると二量化が弱いために,直下のLUMOバンドがHOMOバンドと重なるようになり,HOMOバンドがhalf-filledでなくなるために金属(あるいは超伝導)状態が出現する,というのが申請者のモデルである。その際,元々のHOMOバンドが(フェルミ面の形状から判断して)2次元性を強く示す系ほど加圧によって金属相が現れやすい傾向があることを見出し,次元性が高いほど電子相関効果が弱くなる可能性を指摘した。β'-Et_2Me_2Z塩に対する強結合近似バンド計算は,この系がかなり強い2次元性を持つことを示した。また,いずれも加圧によって金属相が現れやすく,Me_4Z塩で得た知見をさらに支持する結果を得た。
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