高イオン強度、中性pHにおいて、平滑筋ミオシン尾部の加熱ゲルは元の母ミオシンのほぼ80%のゲル強度を示す。一方、鶏の砂嚢から調製した平滑筋ミオシンは、骨格筋ミオシンに匹敵するほどの加熱ゲル強度を示すが、その尾部フラグメントのゲル強度はおよそ1/20となる。この理由を明らかにする目的で研究をおこなった。 1.平滑筋ミオシンの加熱ゲル形成に対する金属イオンの影響を調べた。骨格筋ミオシンとは違って、Caイオンでは全く影響されないが、数mM程度の低濃度の塩化鉄、塩化第二鉄、塩化亜鉛の共存によって、ゲル強度は2〜5倍に増強された。これは両ミオシンで分子表面のイオン基の局在が相違していることを暗示している。 2.平滑筋ミオシンを種々のタンパク質分解酵素で加水分解し、尾部フラグメントの生成過程を分析した。不溶性のフラグメントとして、パパインでは主に130kDa、α-キモトリプシンでは130kDa、90kDa、および65kDa、スタフィロコッカスアウレウスの酵素では130kDaと90kDaのフラグメントが生じた。すでに報告されているように、ミオシンフラグメントの生成速度はミオシンの存在形態に依存し、酵素によっては不溶性の尾部フラグメントから更に水溶性のサブフラグメントも生じた。いずれの尾部フラグメントの加熱ゲル形成能も母ミオシンのそれと比較して極めて小さかった。 3.パパインを用いて調製した130kDaの平滑筋ミオシン尾部の加熱温度に伴う疎水基の露出の程度は、骨格筋ミオシン尾部のそれと比較して小さく、平滑筋ミオシン尾部の加熱時における凝集体形成能および網目構造形成能は、尾部自体の部分内構造を反映していると考えられる。この点に関して、更に研究を継続して進めている。
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