Research Abstract |
近年、癌化のメカニズムとして増殖・分化の調節異常のみならず、アポトーシスによる細胞死を誘導する為のシグナル伝達機構の異常が注目されている。すなわちアポトーシスの誘導機構の解析は、従来よりの抗癌剤による化学療法・分化療法とは作用機序の異なる新たな癌治療法の開発に寄与するものと考えられる。従来スフィンゴ脂質は主として膜構成成分として考えられてきたが、スフィンゴミエリンの分解産物であるセラミドが"スフィンゴミエリン・サイクル"(スフィンゴミエリン【tautomer】ホスフォリルコリン+セラマイド)と名づけられた機構を介して、HL-60白血病細胞のアポトーシス誘導時に細胞内シグナルメッセンジャーとして機能もしていることを、最近我々は報告した(Okazaki,T.et al.,J.Biol.Chem.,265:15823-15831,1990,Okazaki,T.,et al.,J.Biol.Chem.,264:19076-19080,1989)。核内転写因子(NF-κB、AP-1、c-mycなど)は細胞の増殖・分化調節をDNAレベルで行うための制御要素として重要であり、我々は白血病細胞アポトーシス誘導における脂質メッセンジャーであるセラミドを介したシグナル伝達経路と核内転写調節因子AP-1との関連を検討した。その結果、セラミドによる白血病細胞HL-60のアポトーシス誘導にはAP-1活性の早期の増強が不可欠であることが判明した(Sawai,H.,Okazaki,T.,et al,J.Biol.Chem.,270:27326-27331,1995)。AP-1ヘテロダイマーの構成成分であるfos・junファミリイのアポトーシス誘導時のmRNAレベルの変化を検討したところ、TNF-αや熱ショックではfosファミリィが増強するにもかかわらずセラミドでは僅かしか変化しないことが判明した。現在、さらに詳細に検討している。
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