Research Abstract |
排尿機能に関係の深い骨盤底部の構造部ならびに周囲の自律神経,リンパ系,筋膜等について,成人男性5体,女性3体の解剖を精細に行い,その映像化につとめた. (1)肛門挙筋の前端部は他の部よりも厚く,また男性では前立腺に密着し,結果として膀胱頸部の位地を上昇させて後部尿道を細長くし,失禁の防止に役立っていると思われる.このことは女性においても基本的に同じである.肛門挙筋の前端部には骨盤神経叢(自律神経叢)の最も低い枝が陰茎(核)背部に行く手前で数本の枝を与えているので,癌手術時にこの神経をできるだけ保存することが望まれる. (2)女性体の前会陰筋の剖出では,従来,尿道の括約筋装置と考えられてきた深会陰横筋は定型的には認められなかった.それにかわってその深部で両側の坐骨枝から起こり尿道の前で合する筋束が認められた.この筋は尿道の直前にアーチを作っており,収縮すれば尿道を後方に屈曲させるので,尿道の禁制機構として役立つことが期待される.今後,多数例における調査が必要と思われる. (3)骨盤神経叢の構成に関しては,主交感要素の上下腹神経叢・下腹神経の筋膜について検討した.腹部の上半では,腎筋膜は,大動脈,大静脈,尿管,精巣動静脈包含しているが,ほぼ下腸間膜動脈起始部のレベルで,(a)前方の精巣動静脈に続く筋膜,(b)中間の上下腹神経叢・下腹神経・尿管を含む筋膜,および(c)後方の腸骨血管鞘に続き膀胱下腹筋膜に連絡する筋膜の3層に分離する.(b)をとくに尿路下腹神経筋膜ureterohypogastric fasciaと名づけ,骨盤外科手術時における副損傷を避ける要素として強調したい. (4)以上の剖出結果をもとにビデオソフトを製作した.骨盤外科の臨床家の参考に提供される.
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