Research Abstract |
最近,我が国の一部の老人施設や病院で,化粧のメイクアップやファッションショーなどの体験を通して,情動を活性化させたり精神的疾患を回復させようとする試みが行われている。本研究では,老人施設での生活上の問題に焦点をあて,入居者の生きがい観や情動の活性化,衣生活の在り方などについて,施設側の人々がどのように考え,また実情にどうかアンケート調査を通して考察した。 入居者の介護の程度により,(1)特別養護老人ホーム,(2)養護老人ホーム,(3)軽費老人ホーム,各200施設の合計600施設に対して,郵送調査法によるアンケート調査を実施した。なお,調査票の回収率は,特別養護老人ホーム71.5%,養護老人ホーム82%,軽費老人ホーム80.5%,全体で78%であった。調査内容は,(1)施設の環境づくりへの配慮,(2)生きがいを与えるための活動,(3)入居者の衣服の調達・選択・廃棄,(4)日常着と寝衣の区別,(5)着替えの実情と着替えの自立,(6)入居者のおしゃれ行動へのアドバイス,(7)おしゃれ行動と情動の活性化への考え,(8)入居者用衣服に必要な条件,などである。 調査結果のうち,主に情動の活性化やおしゃれ行動に関連する部分については次の通りである。生きがい観を与えるために「美容師などを呼んで入居者に化粧をする」は約20%が実施していたが,「ファッションショーをする」は約5%であった。これらの行為について特別養護の場合,化粧は31.5%,ファッションショーは5.6%が実施していると回答しており,養護老人や軽費の場合を上回った。「入居者におしゃれをさせる,おしゃれ意識を持たせること」には,90%の施設が情動の活性化に効果があると回答していた。また、「化粧やおしゃれ行動へのアドバイス」は48%が行っているが,この割合は軽費に比べて特別養護・養護の方が多かった。「定期的な着替え」は53%の特別養護が実施していたが,軽費では85%が本人の自由にしていた。「着替えの自立に向っての行為」は,特別養護で51%,養護で40%,軽費で11%が行っていると回答していた。 これらの調査結果は装いや化粧のおしゃれ行動が,老人施設入居者の情動の活性化に対して効果があることを示唆している。また,入居者への化粧行動の実施状況は予想を上回る結果であり,施設サイドでの情動の活性化の取り組みの一端を知ることができた。老人病院では,化粧行動により情動の活性化を実施している例として山上病院(鳴門市)があるが,この病院では情動の活性化のみならず精神の安定化や残存機能の回復にも効果があると報告している。老人病院での実施例はまだ少ないが,この分野での発展も期待できる。我々が実施した健常な高齢者女性(総数190名,60歳代50名,70歳代96名,80歳以上39名,不明5名)に対する面接調査でも,化粧をすることに対して,約6割が「楽しい」,約8割が「気持ちが若返る」,約9割が「高齢になっても化粧は必要だ」と考えている。本調査研究を通して,高齢者におしゃれ意識を持たせること,おしゃれ意識を持続させることは,情動の活性化に有効であるばかりでなく,ボケ防止にも関連することが考えられる。
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