Research Abstract |
本研究は,これまで社会集団の規模と内容,社会の階層化の程度といった,社会構造のある要素の反映物として「静的」な研究の対象となってきた,西日本の弥生時代中期墓地を対象として,これらを葬送儀礼という社会的行為の「場」として捉えなおすことにより,弥生時代社会研究への新しいアプローチの方法の形成を模索することを目標としておこなわれた。 このような目標を達するため,まず,個々の墓地の形成過程の微細な復元と,「場」の構造の復元がもっとも重要であった。土器として編年的位置付けが可能な甕棺を埋葬主体とする北部九州地方の甕棺墓地は,このような作業のために好適であり,代表的かつ精度の高い調査がなされた甕棺墓地の資料を集成し,それぞれに関する墓地形成過程の微細復元をおこなった。 また,このような研究の結果をよりひろい弥生時代社会のながれのなかに位置付けるため,対照資料として,関西地方のいわゆる方形周溝墓墓地に関して,同様な検討をおこなった。 これらの結果;1)墓地の「場」の構造の復元を通じて,葬送儀礼を,身体運動の形として復元することが可能となったこと,2)墓地形成過程の微細復元により,このような儀礼の時代を通じた変化とその意味にかんする解釈の一定の見通しがたったこと,3)これらの成果に基づく,弥生時代社会へのアプローチのあらたな方法の確立の可能性がみえてきたこと,以上が本研究の顕著な成果としてあげられよう。 成果の一部は1996年12月16日-19日連合王国リバプールにて開催された第18回理論考古学会年次大会にて口頭発表された。また,『比較社会文化』に論文一編が掲載される。また,今後,数本の論文が内外の雑誌に投稿される予定である。
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