Research Abstract |
1990年11月に約200年ぶりに噴火を再開した雲仙普賢岳は,翌1991年5月から溶岩を噴出させ巨大な溶岩ドームを形成した.そこから崩壊する溶岩は火砕流を発生させ,付近の住民や家屋に大きな災害をもたらしたが,1995年2月以降溶岩噴出は急速に衰えた.現在山頂付近に存在する溶岩ドームの体積は約1億立方メートルであり,また火山活動にともない,山麓に堆積したり遠方に四散した火山灰の量は溶岩換算で,約1億立方メートルと推定され,計約2億立方メートルのマグマが地下から噴出したことになる. 本研究では雲仙普賢岳ドーム上およびその周辺の20点にGPS観測点を設置し,マグマの地上噴出による地殻変動および地表に噴出した溶岩の冷却に伴う地殻変動を数回の移動観測(一部は常時観測)により明らかにした.本研究により以下のような智見があった. 1.溶岩ドーム上および近傍の観測点はすべて沈降しており,雲仙普賢岳への新たな溶岩の供給は地下から行なわれていない. 2.すべての溶岩ドーム上の観測点は沈降するとともに,ドーム中心から放射状の水平変動が記録されており,またこの変動は非常に一定の速度で進んでいる.このことからドーム内部は高温を保ったまま餅が潰れるように周囲に広がりながらゆっくり冷却していると考えられる. 3.溶岩ドーム噴出開始直後から続いていた普賢岳西方を中心とする島原半島の収縮変動は,溶岩噴出の停止とともにその収縮変動も停止していることがわかった.今回新たに設置した観測点ではマグマの変動をとらえることができず,普賢岳西方に存在するであろう地下深部のマグマ溜りの位置をさらに詳しく推定することは残念ながらできなかった. 今後この観測点を維持していくことにより,あらたなマグマの貫入が生じた際にその位置や規模が推定できるとともに,その後の火山活動予測に大きく貢献することが見込まれる.
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