Research Abstract |
瀬戸内西部から九州北部にかけて,海岸部における地衣類の野外調査を実施した.調査に当たっては特にアナイボゴケ科に着目し,潮間帯から飛沫帯にかけて岩上の地衣類の生育状況を調査・記録し,必要に応じて資料を採取した.採取した資料について,実験室において実体顕微鏡を用いて外部形態を観察し,また切片を多数作成し生物顕微鏡により内部形態を精査し,記載・スケッチ・写真等によって記録した.また必要に応じ成分分析(呈色反応,顕微結晶法,薄層クロマトグラフィー)を行った.採取した資料は全て標本化した. 従前の調査によって得られていた千葉県産をはじめ伊豆半島産や紀伊半島産などの海岸生アナイボゴケ科地衣類標本との比較と,Nylander(1890)によって報告された日本産アナイボゴケ科地衣類標本との比較を実施した. その結果,今回の調査地については,5種のアナイボゴケ属地衣類が海岸に産することがこれまでに判明した.これらは,ヨーロッパでよく知られている海岸の地衣フロラとは明らかに異なることが判った.なお,このうち2種は既に日本から知られていたが,いずれも少数の標本によってしか確認されていなかった種であり,多くの生態・地理学的新知見を得た.他の3種は,これまで日本から知られていた種とは形態的な差異が見いだせるので,新種か日本新産種の可能性がある.これらについては更に検討を継続する必要がある. アナイボゴケ科以外の海岸生地衣類について幾つかの新知見を得た.イソクチナワゴケ(新称;Enterographa praepallens)は従来3箇所から知られるに過ぎなかったが,今回,新たに多数の地点で生育を確認した.ホルトノキゴケ属の一種が海岸の岩上に生育するのは国内では初めて確認した.分類学的所属については,更に検討が必要である.
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