Research Abstract |
ヒトの体内に埋食された人工股関節のさらされる環境は極めて過酷なため,ゆるみ,磨耗あるいは摩耗粉による感染等の原因により,再置換手術を余儀なくされることがしばしばある.また,通常の生活においても,人工股関節には体重の数倍におよぶ荷重が繰返し作用するため,10年を越える長期間の使用を想定した場合には,疲労破壊の防止が重要な課題になるものと考えられる.しかしながら,生体内の環境を加速的に再現する手法が確立されていないため,チタン合金等,生体硬組織の代替を目的とし使用される材料の,生体における腐食・疲労メカニズムに関しては,ほとんど明らかにされていない. このような,人工股関節の安全性を確保し,信頼性の高いものとするためには,生体内における腐食現象を加速的に再現できる環境を実験室内に構築し,その環境において人工股関節用材料の腐食疲労特性を明確にし,その結果に基づいた形状設計を行うことが必要と考えられる. 本研究は長期間にわたり生体内に埋殖され,腐食・摩耗環境のもとで力学的負荷に耐え,その機能を失うことのない新しい材料の開発の確立最終目標として行うものであり,その第一段階として,生体硬組織代替用材料の強度評価手法の確立を試みる.当該年度は,生体組織内の腐食環境を加速的に再現することに重点を置き,生体内に埋殖された材料の強度,特に疲労強度特性に関して材料強度学的立場から検討を加え,新材料開発へ向けての基礎的指針を得ることを目的として研究を行った. 具体的な研究実績としては,まず,実際にヒトの体内にインプラントされることにより生じた人工股関節の腐食損傷について,破壊力学的観点から定量的に調べ、その結果に基づき,生体内における腐食環境を加速的に再現できる腐食試験システムを構築した.さらに,開発した試験システムを用いて,人工股関節用材料の腐食試験を実施し,食孔の発生・成長挙動を明確にするとともに,腐食損傷の進行速度をコントロールする手法を提案した.
|